注ぎ染めによる商品の代表は、手拭(てぬぐい)である。職人の手作業 によって生み出される手拭は、一枚の掛け軸のように美しい。ビジュアル 的な価値よりも多岐にわたる用法にこそ手拭の真価を見る。古来より庶民 の生活にとって切り離すことの出来ない日用品であった手拭は、現在のタ オルにあたる汗拭きとしての活用が一般的なイメージではないだろうか。 女性にとっては、豊富な色彩、図柄から着物にあわせる小物としての活用 もあげられ、生活に密着した用途には枚挙に暇がない。その中で見落と しがちなのは、宣伝媒体としても活用された点である。 江戸時代中期に入ると庶民階級にも家紋が浸透した。特に商人たちは会社 の商標として包装、提灯などに使用し、手拭には屋号を印して贈答品と した。江戸時代においての販売促進グッズである。使用人たちは、刷り込 んだ屋号が読み取れるように着用して社名の広告につとめた。 その着用法の名残り、寿司屋の、魚屋の頭に巻き付けた鉢巻きからも見て とれる。このように手拭は、もっとも古い宣伝方法としても活用されたの である。 生活に密着し、大量に生産する広告媒体でもある手拭の制作方法はシン プルで合理的である。注ぎ染めと言われる、この制作行程は、色を入れた くない箇所を糊でマスキングして染料を”注いで染める”。その名の示す 通りの製法である。 この製法にも、伝統の知恵と職人の技が随所に光る。注文のデザインをフ リーハンドで型に描き、手作業によって切り抜く。細かく正確な職人の 技術。二百五十年余、各時代の職人たちによる弛まぬ努力によって培った 匠の技は、テクノロジーの発達した現代においても変わることはない。 切り抜いた型に版画の要領で糊を乗せる。 生地を折り返して、再び糊を乗せる。一反の生地のすべてに、この作業を くり返す。糊を塗った箇所に大鋸屑(おがくず)を振り掛け、以後の糊へ の干渉をシャットアウトする。染色したい箇所に専用の器具で染料を注 ぐ。大量の生地に均等に注いで染めることは、やはり熟練の技を要する。
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