引き染めによる主な商品は、暖簾(のれん)・大漁旗・寺社などに納める 大型の幕があげられる。そのほとんどが、細かい手作業による一点もので ある。「一枚の布に信用を託す。なんて柔らかな発想」。外国人は暖簾に 対してこのような感想を持つようである。シンプルな美しさを持つ暖簾は、 日本人の心情の一面を表したものである。現在も主に飲食店において広く 使用され、その店の個性を表わしたデザインは広告としての役割、店の外と 内とを区切る境界線の役割をその一枚の布が果たすのだ。昔ながらの、 日本人の商売に関する心持ちも垣間見える。根底には、店主と客、通りがか りの通行人を含む人間関係の距離の近さがある。 暖簾をはじめとしたこれら商品の基本的な創作行程は、色を入れたくない 箇所を糊でマスキングし、刷毛(はけ)で染料を塗るという単純な行程 だが、その作業のなかにも伝統の知恵と職人の技が随所に光る。 まず、生地に注文通りのデザインをフリーハンドで描いていく。まさに 職人の技術。創業以来、二百五十年余の歴史に蓄積されたノウハウは、 父子相伝・徒弟制度によって現代にも息づいている。別の色が入らないよう に、すでに塗り終わった箇所、白地のまま残したい箇所に糊を塗る。塗った 箇所に砂を振り掛けることで、以後の糊への干渉をシャットアウトする。 また砂は乾燥を促進させる効果も持つ。乾燥後、不要な砂を落してから糊で マスキングした箇所以外に色を入れる。良く乾いてから、蒸気熱を用いて 色を定着させ、水洗いする。 昭和中期までは、染工場前の川で水洗作業を行っていたが、現在では六代目 亀太郎より興したクリーニング部門で培った水洗技術を活かしている。 大きく美しく染めあげられた布地を干している光景は圧巻である。仕立てを 待つ布地は、伝統工芸と呼ぶに相応しい風格をすでに備えている。
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